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長崎家庭裁判所 平成2年(少)934号 決定

少年 D・H(昭47.2.19生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第1  Aと共謀の上、

1  平成2年3月23日午前1時ころ、長崎市○○町×番××号○○方横駐車場において、B所有の自動二輪車1台(登録番号長崎△××××号、時価約30万円相当)及びバイクカバー1枚(時価約300円相当)を窃取し

2  同年4月1日午前1時ころ、同市○○町××番××号コーポ○○1階駐車場において、C所有の自動二輪車1台(登録番号長崎△××××号、時価約50万円相当)を窃取し

3  同月9日午前1時ころ、同市○○町××番××号○○アパート前路上において、D管理の軽四輪貨物自動車1台(登録番号長崎××△××××号、時価約50万円相当)を窃取し

4  同月16日午前2時ころ、同市○町×××番地○○方前路上において、E所有の自動二輪車1台(登録番号長崎△××××号、時価約5万円相当)を窃取し

5  同月20日ころの午前2時30分ころ、長崎県西彼杵郡○○町○○××××番地所在の株式会社○○前において、同所に設置されていた自動販売機から、F管理の現金約3800円及び清涼飲料水約262本(時価合計約2万9500円相当)を窃取し

6  同月26日午前2時30分ころ、同郡○○町○○××××番地所在の○○ふとん店駐車場において、G所有の敷布団1枚外4点(時価合計約8000円相当)を窃取し

7  同年5月3日ころの午後11時ころ、同市○○町××番××号○○方前空き地において、H所有の普通乗用自動車(登録番号長崎××△××××号)からナンバープレート2枚(時価約2000円相当)を窃取し

8  同月6日午前1時ころ、前記○○ふとん店駐車場において、G所有の掛け布団1枚(時価約300円相当)を窃取し

第2  A、I及びJと共謀の上、

1  同年5月5日午後11時30分ころ、長崎県西彼杵郡○○町○○××××番地の×所在の○○建設作業小屋において、K所有の普通乗用自動車1台(登録番号長崎××△××××号、時価約15万円相当)を窃取し

2  同月6日午前5時30分ころ、同郡○○町○○×××番地の×所在の○○管理事務所前において、自動販売機からL所有の現金約2万1000円を窃取し

3  前同日午前7時ころ、長崎市○○町××××番地所在の○○店駐車場において、M所有の自動二輪車1台(登録番号長崎△××××号、時価約20万円相当)を窃取し

第3  A及びNと共謀の上、同年7月8日午前5時ころ、同市○○町×××番地の××所在の○○マンション前バイク置き場において、O所有の自動二輪車1台(登録番号長崎△××××号、時価約20万円相当)を窃取し

第4  A、P及びQと共謀の上、同月23日午前0時30分ころ、同市○町××番××号○○前路上において、R所有の自動二輪車1台(登録番号×長崎△××××号、時価約8万円相当)を窃取し

第5  Pと共謀の上、同年4月2日午前1時ころ、長崎県南高来郡○○町○○×××番地×所在の○○所有の駐車場において、S所有の自動二輪車1台(登録番号長崎△××××号、時価約30万円相当)及びヘルメット1個(時価約3000円相当)を窃取し

第6  Iと共謀の上、

1  同年6月19日午後11時30分ころ、長崎市○○町×番××号○○マンション西側階段下において、T所有の第1種原動機付自転車1台(登録番号長崎市△×××××号、時価約5万円相当)を窃取し

2  同月20日午前1時30分ころ、同市○○町××番地所在のショップ○○先路上において、U所有の自動二輪車1台(登録番号×長崎△××××号、時価約25万円相当)を窃取し

第7  V及びWと共謀の上、同年5月8日午前3時30分ころ、長崎市○○町××××番地の×所在の○○自動車整備工場において、X管理の普通乗用自動車(登録番号長崎××△××××号、時価約40万円相当)を窃取し

第8  Yと共謀の上、同年6月24日午前1時30分ころ、同市○○×丁目×番×号○○方下駐車場において、Z所有の自動二輪車1台(登録番号×長崎△××××号、時価約30万円相当)を窃取し

第9  同年4月28日午前0時30分ころ、同市○○町××番×号○○方前路上において、a所有の第1種原動機付自転車1台(登録番号長崎△×××××号、時価約2万円相当)を窃取し

第10  前同日午前2時ころ、同市○○町×番××号○○バイク駐車場において、b所有の自動二輪車1台(登録番号長崎△××××号、時価約40万円相当)を窃取し

第11  同月29日午前1時ころ、同市○○町××番××号○○ビル1階駐車場において、c所有の普通乗用自動車1台(登録番号長崎××△××××号、時価約50万円相当)及び自動車運転免許証1通を窃取し

第12  同年5月9日午前1時30分ころ、同市○○町×番××号株式会社○○駐車場において、d管理の普通乗用自動車1台(登録番号××△××××号、時価約230万円相当)を窃取し

第13  前同日午前2時30分ころ、同市○○町××番×号○○方先空き地において、e所有の普通乗用自動車(登録番号長崎××△××××号)からナンバープレート2枚を窃取し

第14  同月10日午前6時10分ころ、長崎県西彼杵郡○○町○○×××の×番地所在の○○方車庫において、f所有の軽四輪貨物自動車1台(登録番号長崎××△××××号、時価約30万円相当)を窃取し

第15  公安委員会の運転免許を受けないで、同年5月10日午後11時29分ころ、長崎市○○町×××番地先道路において、普通乗用自動車(登録番号長崎××△××××号)を運転し

第16  自動車運転の業務に従事するものであるが、前記日時場所において、前記車両を運転して長崎県西彼杵郡○○町方面から長崎市○○町方面へ向かい、時速約115キロメートルのスピードで進行中、同所の手前は右方にカーブした変形交差点である上、交差点手前は上り勾配となっているが、交差点から先は下り勾配となり前方の見通しが困難であったのであるから、あらかじめ減速し安全に走行できるようにハンドル、ブレーキ等を的確に操作して事故の発生を未然に防止すべき業務上の義務があるのに、これを怠り、前記速度のまま走行した過失により、的確なハンドル操作ができず、自車を対向車線に進入させ、折から対向して進行してきたg(当時38歳)運転の普通乗用自動車(登録番号長崎××△××××号)の前部に自車左前部を衝突させ、よって同人に全治約3か月間を要する左下腿開放性骨折等の傷害を、同車の助手席に同乗中のh(当時36歳)に全治約3か月間を要する両大腿骨骨折等の傷害をそれぞれ負わせたほか、自車後部座席に同乗中のi(当時17歳)及びj(当時17歳)を車外に放出し、その衝撃により、前記iを同月11日午前0時40分脳挫傷により、前記jを同日午前1時46分出血性ショックにより、それぞれ同市○○×丁目××番×号○○病院において死亡するに至らしめ

たものである。

(法令の適用)

第1の1から8まで、第2の1から3まで、第3から第5まで、第6の1及び2、第7並びに第8の各事実について、刑法60条、235条

第9から第14までの各事実について、同法235条

第15の事実について、道路交通法118条1項1号、64条

第16の事実について、刑法211条前段

(処遇の理由)

1  少年は、小学校低学年から断続的に窃盗非行を繰り返し、児童相談所の指導や家庭裁判所の試験観察を経たものの非行が抑止できず、昭和62年7月13日には窃盗等合計23件の事件により初等少年院に送致され、昭和63年7月8日仮退院したが、まもなくバイクを購入しての無免許運転、窃盗等の非行を繰り返し、平成元年3月24日には窃盗等合計11件の事件により中等少年院に送致された。平成2年3月12日仮退院し、配管工として就職したものの、数日後には以前の不良交友が復活して外泊を続け出勤しなくなり、自動二輪車、普通乗用車等を窃取しては無免許で乗り回すという従来と同様の非行を繰り返していた。しかも、警察に追跡されて暴走中に上記第16の事故を起こしているが、その原因は少年の一方的な過失であり、結果は死亡2名及び重傷者2名と重大である。それにもかかわらず、少年は、この事故により反省し行動を改めるどころか、さらに、自らも重傷を負って入院中の病院から逃走して、再び自動二輪車の窃盗、無免許運転、暴走行為等を繰り返し、同年7月23日逮捕された。

2  少年は、8歳時に母が家出し、夜間勤務もある父に育てられ、家庭的な愛情を味わえなかったことから、愛情欲求不満が強く、その不満を仲間からの承認を得ることで代償的に解消しようとしてきたが、最近では、その承認を得る手段としてバイクあるいは普通乗用車による暴走行為を繰り返しており、それに関連して一連の窃盗を行うなど本件各非行もそのような心理状態を反映している。また、調査段階において、少年院送致になったら審判廷で暴れたり、自殺すると述べるなど、何とか収容を免れようと幼稚な発想ですねてみせるなど年齢の割に人格が未熟である。

3  少年の父は、少年による被害の弁償に努めたり、少年院や少年鑑別所に面会に訪れるなど少年に対する愛情はあるが、被害額が多額に上っていることから経済的負担及び精神的苦痛が大きく疲労状態である上、勤務の都合から少年の行動に目が行き届かず、また、少年が外泊を続け、父の指導に従う意思がないことから、その保護能力には期待できない。

4  以上のように、本件非行が、窃盗については件数が多く、被害も多額であること、業務上過失致死傷については、過失及び結果が重大であること、いずれについても被害弁償等がなされていないこと、無免許運転や暴走が常習的であること、従来の非行と動機、態様等が同様であり、仮退院後まもなくから本件非行が敢行されている上、自己の非行について内省の深まりに乏しいなど2四にわたる少年院での指導の効果が認められないことなどを考慮すると、刑事処分が相当であるとも考えられるが、本件非行は少年の人格の未熟さによるところが大きく、保護処分による矯正の可能性も失われていないこと、重大な事故を起こし友人を死亡させたことで従来より自己の言動、性格等について考える兆しが認められること、今回は外泊を続けながらも父の留守中に帰宅して父に置き手紙をしたり、父の立場への同情を感じられるようになるなど父との関係に変化が見られること、刑事処分としては、実刑を科せられる可能性が高いと考えられるが、少年の未熟さに照らし、いきなり実刑というのは衝撃が大きく精神的な混乱を生じるおそれがあること、18歳という年齢から、今回が保護処分による更生の最後のチャンスであることなどの諸事情を考え、少年院における再度の指導が相当であると判断する。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用し、少年の傷害の程度を考慮し、医療少年院に送致することとする。

なお、非行の重大性、これまでの少年院の教育効果等に照らし、医療措置終了後は特別少年院に送致し、仮退院の時期については矯正効果を見極めた上、慎重に決定されるよう別途勧告する。

(担当家庭裁判所調査官○○○)

(裁判官 森純子)

〔参考1〕処遇勧告書

(別紙様式)

平成2年少第793号、第808号、第932号、第933号、第934号、第5210号

〔参考2〕少年調査表〈省略〉

別紙 「共犯関係」

・A:昭46.3.11生。 係属歴2。 現在も逃亡中。 少年は「自分が16歳のころから一緒にバイクに乗っていた。ただAはバイクの運転がへたなので自分の後ろに乗っていることが多かった」と言う。少年よりも年上だが、「対等の関係」(少年)。

・D:昭48.2.22生。 窃盗での処分歴1。 少年が人吉農芸学園を仮退院してからの友人。

・H:昭49.4.26生。 毒劇法違反での処分歴1。 初等少年院に少年が送致される前からの友人。

・I:昭50.1.26生。 係属歴なし。少年が人吉農芸学院を仮退院後からの友人。

・J:昭48.10.9生。 係属歴6。 平成2年8月10日付中等少年院送致。

・K:昭48.2.9生。係属歴なし。

・Q:昭48.10.9生。係属歴なし。

・R:昭48.4.25生。 係属歴12。 昭63.11.4付初等少年院送致、平元.3.24付保護観察、平2.3.27付交通短期保護観察等。

・S:昭49.1.5生。 係属歴3。 保護処分歴なし。

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